従業員のメンタル不調、放置は危険!会社が取るべき「配慮義務」の具体策
現場のマネージャーから、一本の内線が入る。
「部下のAさん、最近遅刻が増えて、明らかに様子がおかしいんだ。どう対応すればいいだろうか?」
人事・労務担当者として、このような相談を受ける場面は決して少なくないでしょう。しかし、この一報への対応を一つ間違えれば、従業員個人の健康問題に留まらず、会社の法的責任が問われる「安全配慮義務違反」という重大な経営リスクに発展しかねません。
では、`メンタルヘルス`問題に対し、`会社`として果たすべき`配慮義務`とは、具体的に何を指すのでしょうか?
この記事は、人事・労務担当者の皆様が、複雑でデリケートなこの問題に、自信と確信を持って対応できるようになるための、実践的なガイドブックです。物語のクライマックスには、自社の体制を客観的に評価できる『「配慮義務」遵守度チェックリスト』をご用意しました。
この記事を読み終える頃には、あなたはもう、手探りで対応する担当者ではありません。法と倫理に基づき、従業員と組織の双方を守る、頼れるプロフェッショナルとなっているはずです。
すべての基本となる「安全配慮義務」とは?
まず押さえるべきは、すべての議論の土台となる「安全配慮義務」です。これは労働契約法第5条に定められており、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」とされています。(引用元: 労働契約法 第五条 – e-Gov法令検索)
かつては物理的な安全(工事現場の事故防止など)が主でしたが、現代では心の健康(メンタルヘルス)も、この「安全」に当然含まれると解釈されています。つまり、会社には従業員のメンタル不調を未然に防ぎ、不調者が発生した際には適切に対応する法的な義務があるのです。
【自己診断】あなたの会社の体制は万全?「配慮義務」遵守度チェックリスト
では、あなたの会社は、その配慮義務を果たすための体制が十分に整っているでしょうか?この診断ツールを使って、組織の「健康状態」を客観的に評価してみましょう。
カテゴリー0:経営層の姿勢(すべての土台)
カテゴリー1:不調を未然に防ぐ体制(予防)
カテゴリー2:不調の早期発見と初期対応の体制
カテゴリー3:休職と復職を支援する体制
実務解説:不調者発生から復職までの具体的な3ステップ
診断ツールで自社の体制を確認した上で、実際に不調者が出た場合の具体的な対応フローを3つのステップで解説します。この手順は、厚労省の「職場復帰支援の手引き」を基にしています。
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初期対応(気づきと面談)
- 「気づき」: 本人からの申告のほか、上司や同僚からの報告が最初のサインです。勤怠の乱れ(遅刻・欠勤)、業務成績の低下、様子の変化などを見逃さないことが重要です。
- 本人との面談: 人事担当者または管理職が、プライバシーの保てる部屋で面談します。目的は本人の状態を「評価・判断」することではなく、「傾聴」することです。心配している旨を伝え、本人の話に耳を傾けます。
- 専門家への連携: 面談の内容に基づき、本人の同意を得て、産業医または会社の指定する専門医との面談を設定します。ここで素人判断はせず、専門家の意見を仰ぐことが鉄則です。
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休職の判断と休職中のケア
- 診断書の提出依頼: 産業医の意見や本人の状態を踏まえ、主治医の受診を勧め、「休業が必要」と判断された場合は診断書を提出してもらいます。
- 休職命令の発令: 診断書に基づき、就業規則の規定に沿って正式に休職命令を発令します。休職期間、給与の取り扱い、連絡方法などを書面で明確に伝えます。
- 休職中のサポート: 傷病手当金などの社会保険給付について情報提供し、経済的な不安を軽減します。また、月に1回程度、人事担当者から連絡を取り、孤立させないように配慮します。(過度な連絡はプレッシャーになるため頻度に注意)
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復職の判断と復職後のフォロー
- 復職意思の確認: 本人から復職の意思表示があれば、主治医による「復職可能」の診断書を提出してもらいます。
- 産業医による最終判断: 主治医の診断書は「医学的な回復」を示すものであり、最終的に「会社で働くことができるか」を判断するのは会社(産業医の意見を参考にする)です。産業医が本人と面談し、業務遂行能力が回復しているかを評価します。
- 復職プランの作成: 産業医の意見を基に、本人・上司・人事が連携して復職プラン(リハビリ出勤、時短勤務、業務内容の制限など)を作成します。
- 最終的な復職決定とフォローアップ: プランに基づき最終的な復職日を決定。復職後も定期的に面談を行い、再発防止に努めます。
まとめ:配慮義務はリスクではなく、未来への投資
従業員のメンタルヘルスへの配慮は、単に法的リスクを回避するための「守り」の施策ではありません。すべての従業員が安心して、心身ともに健康に働ける職場環境を整備することは、組織の生産性、創造性、そしてエンゲージメントを高める、最も効果的な「攻め」の経営戦略です。
この記事と診断ツールが、あなたの会社をより強く、より良い場所にするための一助となることを心から願っています。
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