会社にハラスメントを訴えても無視されたら?被害者が泣き寝入りせず、安全な職場を取り戻すための次の一手

勇気を振り絞って、社内の相談窓口のドアを叩いた。「セクハラを受けています」「パワハラで心身ともに限界です」。それは、燃え盛る船の上から打ち上げた、必死の遭難信号(SOS)だったはず。

しかし、そのSOSは黙殺された。会社という名の船長は、「気のせいじゃないか」「君にも原因があるんじゃないの?」と信号を無視し、救助活動を放棄。加害者という火災は放置され、あなたは今も黒い煙が充満する船室で、たった一人、孤独と絶望に苛まれている…。

もし、あなたがハラスメント相談を会社に無視されたという、あまりにも理不尽な状況にいるのなら、まず思い出してください。船長に見捨てられても、あなたの航海は終わりではありません。この記事は、外部の「国際救助隊(公的機関や弁護士)」を呼び、あなた自身の手で安全な職場を取り戻すための、具体的な通信マニュアルです。

船長の責任を問う:会社が負うべき「安全配慮義務」という名の救助義務

なぜ、会社があなたのSOSを無視することが許されないのか。それは、法律で定められた重大な義務を放棄しているからです。

すべての会社(事業主)は、従業員に対して「安全配慮義務」を負っています。これは、「従業員が心身の安全を確保しつつ労働することができるように、必要な配慮をする義務」のことで、労働契約法第5条に明記されています。(参考:e-Gov法令検索 労働契約法第五条

ハラスメントが横行する職場を放置することは、この安全配慮義務に明確に違反します。あなたが相談したにもかかわらず、加害者とあなたを引き離す(席替えや部署異動など)措置を取らなかったり、あなたが恐怖から自主的に早退せざるを得ない状況を放置したりすることは、会社が救助義務を怠っている決定的な証拠です。あなたの苦しみは、断じて「我慢が足りない」からではありません。それは、会社が果たすべき責任を果たしていない「違法な状態」なのです。

救助隊を呼ぶ準備:あなたの現在地を示す「GPS座標」を残せ

外部の救助隊に助けを求めるには、あなたがどこで、どのような危機に瀕しているのかを正確に伝える必要があります。以下の記録は、そのための「正確なGPS座標」となります。今日から、いえ、今この瞬間から記録を始めてください。

  • 社内相談の証拠を確保する: メールなど記録に残る形で相談し、もし対面なら相談後に内容(日時、相手、内容、返答)を詳細にメモしましょう。録音も極めて有効です。
  • 会社の不誠実な対応を記録する: 相談後も状況が改善されない事実、あなたが早退・欠勤せざるを得なかった日付や理由、勤怠記録などを保管します。
  • 心身への影響を記録する: ハラスメントが原因の不眠や頭痛などで心療内科を受診し、医師の診断書をもらうことは、被害状況を証明する強力な証拠となります。

これらの「GPS座標」が、救助隊が迅速かつ的確にあなたを救出するための生命線となります。

外部の救助隊にSOSを発信する:具体的な相談窓口

船長が頼りにならないのなら、船の外に助けを求めるしかありません。幸い、私たちには信頼できる公的な救助隊が存在します。

救助隊①:総合労働相談コーナー(労働局・労働基準監督署)

全国の労働局や労働基準監督署に設置されている無料の相談窓口です。専門の相談員が対応し、必要であれば会社へ「助言・指導」などを行ってくれる場合があります。公的機関から会社に連絡してもらう、強力な一手です。(参考:厚生労働省 総合労働相談コーナーのご案内

救助隊②:弁護士

状況が深刻な場合や、公的機関の指導に会社が応じない場合は、法律のプロである弁護士に相談しましょう。弁護士はあなたの代理人として、加害者の処分や環境改善を法的に要求し、慰謝料請求や労働審判といった、より強力な手段を取ることができます。費用が心配な方は、まずは法テラスの無料法律相談などを利用してみましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 外部に相談したことが会社にバレて、不利益な扱いを受けませんか?

A1. 労働者が労働基準監督署などに申告したことを理由に、会社が解雇や降格などの不利益な取り扱いをすることは、法律で固く禁じられています(労働基準法第104条)。これは「報復の禁止」であり、もしそのようなことをされれば、それ自体がさらなる違法行為となります。

Q2. 証拠が十分にあるか不安です。

A2. 「完璧な証拠」が揃っていなくても、諦める必要はありません。複数の間接的な証拠(日記、同僚の証言、通院記録など)を組み合わせることで、ハラスメントの事実が認められるケースは多々あります。まずは手元にあるものを持って、専門機関に相談してみることが重要です。

結論:あなたはもう、沈みゆく船に乗っているだけの乗客ではない

会社にハラスメントの相談を無視されたあの日、あなたは絶望の海に突き落とされたように感じたかもしれません。しかし、この記事を読んだあなたは、もう違います。

あなたは、船長の怠慢を告発し、外部に救助を要請する通信手段と、その正当性を知りました。あなたは、ただ助けを待つ無力な被害者ではなく、自らの手で未来の航路を切り開く、勇敢な”救助要請者”です。

残された証拠という「GPS座標」を手に、ためらわずに外部の救助隊へSOSを発信してください。その行動こそが、あなたを苦しめる火災を鎮火させ、安全で平穏な航海を取り戻すための、確かな「次の一手」となるのです。