読了予定時間:約10分
多くの人は、一流の人材に対して「生まれつきの才能」「特別なセンスがある」など、先天的な要素に注目しがちです。しかしロジャー・ニーボン教授の研究では、こうした「才能」よりも「一流になるための上達プロセス」を理解し、徹底的に取り組むことが成功を左右する最大要因であると示されています。
また現代の職場で求められる能力は単なる知識やスキルの習得に留まらず、「複雑な問題解決」「即興の対応」「長期的な学習の継続」といった観点が不可欠です。にもかかわらず、多くの人が「退屈」「単調」と感じる基礎的な作業や繰り返しを避ける傾向にあるため、本質的な成長や習熟の機会を逃してしまうリスクがあります。
『EXPERT』では、「見習い」「職人」「達人」などの成長段階を軸に、9つの共通した上達プロセスを提唱しています。その中から代表的なポイントを以下にまとめます。
例えば外科医が深夜の緊急手術を経験することで、緊迫した状況下でも的確に動ける「感覚」を磨いていきます。これは反復的なチャレンジとそこからの学びが不可欠です。
パイロットが日々の点検や操作手順を厳密に繰り返すことで、非常時に即応できる力を備えます。地味で単調と感じる業務こそ、「職人的直感」や即時対応力を鍛える土台になるのです。
マニュアル通りではない不測の事態に対応する力は、知識の蓄積や経験の深化に加え、柔軟な発想力を持つことで生まれます。これらのプロセスは医師、パイロット、シェフ、音楽家、デザイナーなど多岐にわたる分野で共通して観察されているため、普遍的なメソッドと言えます。
具体的な企業名こそ書籍内で限定的ながら、ANA(全日本空輸)やGoogleなどの大手グローバル企業でも類似の実践が見られます。ベテラン社員が地道な手順を繰り返し、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを高速でまわすことで、緊急時や難局においても迅速かつ確実な判断が可能となっているのです。
こうした事例は、一流の上達プロセスが単なる個人技に留まらず、組織全体で結果を出すための重要な文化・仕組みとして機能していることを示唆します。
では、あなたの日常業務やキャリア形成に『EXPERT』の知見をどう活かせるでしょうか。以下の実践的なステップを参考にしてください。
忙しい中でも「地味で退屈」と感じる作業を軽視しないこと。単なるルーチン業務でも、その繰り返しからしか得られない洞察や感覚を養う意識を持ちましょう。
「見習い」「職人」「達人」という成長の段階を自分の中で意識し、それぞれの段階で必要なスキルや態度を明確にする。例えば初歩的ミスの分析や改善は初期段階の重要課題です。
ミスや失敗を恐れず、その要因分析とフィードバックを繰り返すこと。PDCAを意識的に回すことで、習熟度を高めていきます。
ルーチンを身につけた上でマニュアル外の対応力も磨くため、多様なシナリオを想定しながら判断力を訓練します。
短期的な成果のみを追わず、準備や観察、振り返りにじっくりと時間を割き、自己成長の環境を整えることが鍵です。
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』の分析は、「才能」や「センス」という曖昧な評価基準を越え、一流へ至るための具体的かつ再現可能な手順を示しています。特に現代のビジネス環境では、単調な業務にも価値を見出し、忍耐強くプロセスを回し続けることこそが成果と信頼に直結することを強調しています。
あなたのキャリアアップ、チームのスキル育成に活用する際は、今回紹介した9つの上達プロセスを意識し、そこに隠れた意味や価値に踏み込むことが肝要です。