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近年、インターネットの普及に伴い「地球平面説(フラットアース)」と呼ばれる陰謀論が一部で根強く信じられています。特にその代表的な主張である南極にまつわる理論は、現代科学の根幹を揺るがすもの。しかし、実際に南極で「白夜」を観測する実験が行われ、理論的に矛盾の多い地球平面説の弱点が浮き彫りになりました。本記事では、その「最終実験」の詳細と社会的影響、さらに専門家の見解を通じて、科学的事実と社会心理の両面から分析します。
この挑戦的な実験は、アメリカ・コロラド州の牧師ウィル・ダフィ氏が主催しました。参加費は1人約3万5000ドル(約500万円)。準備期間は3年に及び、最終的に平面論者4名、球体論者4名、計8名が南極のユニオン・グレーシャーキャンプに赴きました。
地球平面説では説明困難な「南極で24時間太陽が沈まない白夜」を実際に観測し、その理論の限界を明示することが本実験の目的です。南極地域観測隊の公式報告書によると、南極点では夏至時期に半年間太陽が沈まない極昼現象が観測されており(国立極地研究所、2016~2018年)、この自然現象を直接体験することは、科学的検証として極めて重要でした。
南極では、地球の自転軸が約23.4度傾いているため、夏至前後に太陽が24時間沈まない白夜現象が発生します。これについては南極地域観測隊の詳細な気象観測記録に裏付けられており、国立極地研究所の報告書に数値データと共に公開されています。
注目すべきは、実際に南極で白夜を観測した平面論者の言動です。著名なフラットアースYouTuberのジェラン・キャンパネラ氏は、「太陽は彼ら(球体論者)が言った通りの動きをしている」と認め、「人生では時に間違うこともある」と発言しました。オースティン・ウィシット氏も「俺たちは間違っていた」と率直に告白。こうした事実直視は、陰謀論コミュニティに大きな波紋を呼びました。
本実験は、ライブ配信され、多くが現地のリアルな状況を見守りました。一方で、グリーンバック設定のミスにより、「合成だ」「自宅で撮影している」といった否定的なコメントが殺到し、一時的な炎上を招きました。陰謀論者の一部は「巨大なLEDスクリーンの中で撮影されたフェイクだ」「フリーメイソンの陰謀」と新たな説を展開し、コミュニティはさらなる分断を経験。
イタリアの最新論文(2024年)では、陰謀論コミュニティを「疑似科学型(フォーラム系)」と「反科学型(SNS系)」に分類。実験への反応も2極化し、科学的検証を受け入れるグループと、感情的否定で「工作員」と誹謗するグループに分かれました。この反科学型はファクトチェックが効かず反論自体がさらなる炎上を招き、解決は容易ではないとの指摘があります。
今回の南極白夜観測は、実際に平面論者が自身の目で現象を確認し、科学的事実を認めるケースとして歴史的です。また、一部のメディアと研究機関が連携してライブ配信や詳細レポートを配信し、一般市民や研究者の双方に高い評価を受けました。こうした実証実験は、科学的議論の透明性を高め、誤った情報の払拭につながりました。
南極での白夜観測実験は、地球平面説の理論的な限界を明確に示すとともに、陰謀論コミュニティ内部の分裂や社会心理の複雑さも浮き彫りにしました。私たちビジネスパーソンや教育関係者は、単に情報を否定するのではなく、科学的事実に基づいた啓蒙活動と対話を重ねる必要があります。信頼できる情報発信と受容の態度こそが、現代社会における健全な知識環境の構築につながるでしょう。
まずは、信頼できる情報源から学び、自らの知見をアップデートし続けることが、最初の一歩となります。