あなたの部下は、なぜ自ら羽ばたこうとしないのでしょうか?
言われたことはやる。しかし、そこに情熱の炎は見えない。それどころか、才能豊かなはずのメンバーが次々と自信を失い、静かに去っていく…。

もしあなたがそんな悩みを抱えているなら、想像してみてください。あなたは良かれと思って、部下のために頑丈で立派な「見えない鳥かご」を用意してしまっているのかもしれません。アメとムチで外からコントロールしようとすればするほど、部下はその中で翼をたたむことを覚えてしまいます。

この記事でご紹介する『部下をもったらいちばん最初に読む本』は、その鳥かごをこじ開けるための指南書ではありません。部下が自らの意志で扉を開け、大空へと飛び立つことを可能にする「魔法の鍵」、すなわち「リードマネジメント」と、その根幹にある「選択理論」という哲学を授けてくれる一冊です。

1. 設計者の告白:鳥かごの中でもがいた「暗黒の7年間」

本書の理論に圧倒的な説得力を与えているのは、著者・橋本拓也氏自身の「物語」です。2006年にアチーブメント株式会社に入社し、トッププレイヤーとして活躍後、順調にマネジャーへ昇進。しかし、そこから彼の「マネジメントの暗黒時代」が始まります。

彼が良かれと思って振りかざした管理手法(外的コントロール)は、まさに部下を「見えない鳥かご」に閉じ込める行為でした。結果、チームは高い離職率とメンバーの不調に苦しみ、彼は約7年間もがき続けます。この率直な失敗談の告白が、彼を単なる理論家ではなく、私たちと同じ痛みを知る実践者として際立たせています。

参考: 橋本 拓也 Takuya Hashimoto – アチーブメント株式会社

彼の転機は、「選択理論心理学」という「魔法の鍵」との出会いでした。この鍵を手にしたことで、彼のマネジメントスタイルは劇的に変化。鳥かごの扉を開ける方法を学び、部下一人ひとりが自らの意志で羽ばたく環境を創り上げることに成功したのです。

物語の力:「ヒーローズ・ジャーニー」に学ぶ共感の構造

この物語は、神話学者ジョーゼフ・キャンベルが提唱した「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」の構造そのものです。

  • 試練と深淵: マネジャー昇進後、「7年間の暗黒時代」というどん底を経験する。
  • 啓示と師: 「選択理論心理学」という魔法の剣(鍵)を手に入れる。
  • 帰還: 苦しむ他のマネジャーを救うため、自らの体験を書籍を通じて分かち与える。

私たちはこの物語に自らを重ね合わせることで、単なるノウハウを超えた感動と、「自分も変われるかもしれない」という希望を受け取るのです。

参考: ジョーゼフ・キャンベルの「ヒーローズ・ジャーニー」を物語の創作に活かす方法 – SCREENRANT

2. 魔法の鍵の正体:心を動かす「選択理論心理学」

では、「リードマネジメント」の根幹をなす「選択理論」とは、一体どのような哲学なのでしょうか。これは、米国の精神科医ウィリアム・グラッサー博士が提唱した心理学で、その鍵の仕組みを解き明かす設計図とも言えます。

参考: 選択理論心理学とは – NPO法人日本リアリティセラピー協会

原理原則:「すべての行動は自らの選択である」

選択理論の中心原理は、「すべての行動は、本人が自ら選択した結果である」という考え方です。つまり、人は誰かに「コントロールされている」のではなく、外部からの刺激に対して、自らが最善と信じる行動を「選択している」に過ぎません。

この原理は、マネジャーの役割を根底から覆します。部下を鳥かごに閉じ込めて強制的に動かそうとする「外的コントロール」から、部下が「自ら飛び立ちたい」と思えるような魅力的な大空(環境)を用意する「内的コントロール」への転換を促すのです。

翼の羅針盤:「5つの基本的欲求」を理解する

部下がどの方向に飛びたいのかを知るための羅針盤、それが人間が生まれながらに持つ「5つの基本的欲求」です。

  • 生存の欲求: 安全で健康でありたい。
  • 愛・所属の欲求: 他者と関わり、愛し愛されたい。
  • 力の欲求: 認められ、達成し、貢献したい。
  • 自由の欲求: 自分で選択し、束縛されたくない。
  • 楽しみの欲求: 学び、遊び、笑いたい。

優れたマネジャーは、部下一人ひとりの欲求の強弱バランスを深く理解し、その翼が求める風を仕事の中に用意します。「認められたい」欲求が強い部下には裁量を与え、「学びたい」欲求が強い部下には新たな挑戦の機会を提供する。これが「魔法の鍵」の具体的な使い方です。

出典: 選択理論の基本概念「5つの基本的欲求」とは? – 株式会社リアライズ

目指すべき大空:「上質世界」という目的地

さらに重要な概念が「上質世界」です。これは、その人が「こうありたい」と願う理想のイメージ(人、モノ、価値観)が集められた、心の中のアルバムです。

リードマネジャーの究極の目標は、マネジャー自身やチーム、そして仕事そのものが、部下の「上質世界」というアルバムの1ページに加えられること。これが実現したとき、部下は報酬や罰といった鳥かごのエサに頼らずとも、内側から湧き上がる情熱を燃料に、自律的に大空へと羽ばたいていくのです。

3. 鳥かごの外へ:物語があなたに問いかけること

橋本氏の物語と「選択理論心理学」は、私たちに問いかけます。
あなたは、部下を管理するための「鳥かご」を磨き続けますか?
それとも、彼らが自ら飛び立つための「大空」を創り出すための「鍵」を探しますか?

この理論は万能の魔法ではありません。しかし、あなたのマネジメントを、支配から支援へ、管理から解放へと導く、強力な羅針盤となるはずです。