その金型保管、”見えない請求書”になっていませんか?シマノ違反事例に学ぶ下請法と費用の考え方
あなたの会社の倉庫に、親事業者から預かっている金型はありませんか?
その保管のために場所を確保し、管理のために年に数回、棚卸作業を行っている…。これらはすべて、御社のリソースを使って行っている立派な業務です。しかし、その業務に対する「請求書」を発行したことはあるでしょうか。
2025年9月17日、自転車部品の世界的メーカーであるシマノが、まさにこの問題で公正取引委員会から勧告を受けました。これは、多くの下請け企業が抱える「下請法における金型保管の費用」という根深い課題に、社会的な光が当たった瞬間でした。
この問題の本質は、下請け企業が負担させられている『見えない請求書』です。この記事では、シマノの事例を具体的に解き明かし、あなたの会社が抱えるかもしれない「見えないコスト」に気づき、正当な権利を主張するためのヒントを探ります。
明るみに出た『見えない請求書』:シマノの事例
まず、何が起きたのかを具体的に見ていきましょう。
公正取引委員会の発表によると、シマノは少なくとも2023年12月以降、製品の発注が長期間ないにもかかわらず、121の下請け事業者に対し、合計4313個もの金型などを無償で保管させていました。それだけではありません。年に2回、それらの棚卸作業まで無償で行わせていたのです。
- 発生しているコスト: 保管スペースの賃料、管理のための人件費、光熱費など
- シマノへの請求額: 0円
これが、まさに『見えない請求書』の実態です。下請け企業は、実質的にシマノが負担すべきコストを肩代わりさせられていたのです。公取委は、この行為が下請法で禁じられている「不当な経済上の利益の提供要請」にあたると判断しました。
なぜ違反なのか?下請法が守るもの
なぜ、慣行として見過ごされがちな「金型の無償保管」が、法律違反と判断されたのでしょうか。
それは、下請法(下請代金支払遅延等防止法)が、親事業者と下請け事業者の間の公正な取引を守り、弱い立場にある下請け事業者を保護するための法律だからです。
今回のケースは、下請法 第4条第2項第3号に定められた禁止行為に該当します。これは、親事業者が自己のために、下請け事業者に対して金銭や労務などを「不当に」提供させることを禁じるものです。
ポイントは「発注が長期間ないのに」という点です。近い将来にその金型を使って発注があるのであれば、一時的な保管にも合理性があるかもしれません。しかし、発注もないのに一方的に保管や管理の負担だけを強いることは、「不当」な利益の提供要請、すなわち「下請いじめ」に他ならないのです。
あなたの会社の『見えない請求書』を見つける方法
シマノは、公取委の勧告を受け、謝罪と共に費用の支払いや再発防止策を発表しました。しかし、これは氷山の一角かもしれません。あなたの会社は大丈夫でしょうか?以下の項目に心当たりはありませんか。
チェックリスト:これって”見えない請求書”?
- □ 長期間(例:1年以上)発注のない親事業者の金型や治具を保管している。
- □ その保管料や管理費について、一度も協議したことがない。
- □ 親事業者からの要請で、定期的な棚卸やメンテナンスを無償で行っている。
- □ 「昔からの慣例だから」という理由で、コスト負担を諦めている。
もし一つでも当てはまるなら、あなたの会社も『見えない請求書』を抱えている可能性があります。そのコストを計算してみてください。それは、本来であれば会社の利益となるはずだった、大切なお金です。
「見えない請求書」を、正当な請求書に変えるために
では、どうすればこの状況を変えることができるのでしょうか。
- 記録を残す: 保管している金型のリスト、占有しているスペースの面積、棚卸にかけた時間など、コストの根拠となる記録を正確に取りましょう。
- 勇気をもって協議する: まずは親事業者に対し、保管料や管理費についての協議を申し入れることが第一歩です。その際、上記の記録が交渉の材料になります。
- 公的機関に相談する: 交渉が難しい場合や、不当な扱いを受けた場合は、公正取引委員会や中小企業庁が設置している「下請かけこみ寺」などの無料相談窓口に相談しましょう。匿名での相談も可能です。
今回のシマノの事例は、これまで「当たり前」とされてきた不公正な慣行に、国がNOを突きつけたことを意味します。これは、すべての下請け企業にとって大きな追い風です。
あなたの会社が発行できずにいた『見えない請求書』。今こそ、それに光を当て、正当な対価を要求する時なのかもしれません。
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