他人事ではない!中小企業のための『デジタル防災』入門 – ランサムウェア対策の基本と実践
「うちみたいな小さな会社は狙われないよ」
もし、そう思っているなら、その考えは今すぐ捨てるべきかもしれません。2025年上半期、ビジネスを根こそぎ破壊するサイバー攻撃「ランサムウェア」の被害が過去最悪のペースで発生。そして、その3件に2件は、私たち中小企業を襲っています。
警察庁の発表によると、復旧費用は1000万円以上が続出し、中には1億円を超えるケースも。これはもはや、対岸の火事などではありません。
しかし、絶望する必要はありません。ランサムウェアは、正しく備えれば被害を最小限に抑えられる「災害」です。この記事では、中小企業が取り組むべきランサムウェア対策を、専門家任せの難しい話ではなく、全社で取り組む『デジタル防災』という視点から、分かりやすく解説します。
デジタル災害の震源地:なぜ中小企業が狙われるのか
なぜ、攻撃者は大企業ではなく中小企業を狙うのでしょうか。理由は大きく2つあります。
- セキュリティ対策が手薄だと見られているから: 攻撃者は、複雑な鍵を時間をかけてこじ開けるより、鍵のかかっていない家を狙います。「うちは大丈夫」という油断が、最も危険な脆弱性なのです。
- サプライチェーンの踏み台にされるから: 大企業と取引のある中小企業を攻撃し、そこを踏み台にして、最終的に大企業のネットワークへの侵入を狙うケースが増えています。あなたの会社が、取引先全体を危険に晒す入り口になる可能性があるのです。
警察庁のデータは、その深刻さを物語っています。2025年上半期の被害116件のうち77件が中小企業。そして、復旧に1億円以上を要した企業さえありました。これは、事業の存続そのものを揺るがす「デジタル災害」と言えるでしょう。
災害はどこからやってくる?身近に潜む「防災の穴」
では、攻撃者という名の災害は、どこから侵入してくるのでしょうか。警察庁の分析では、2つの「穴」が明確に指摘されています。
- VPN機器の脆弱性: テレワークの普及で多くの企業が導入したVPN(社外から社内ネットワークに安全に接続する仕組み)。しかし、その設定が甘かったり、ソフトウェアが古いままだったりすると、格好の侵入口となります。
- 安易なIDとパスワード: 「admin」「password」「123456」…驚くほど簡単なパスワードや、初期設定のままのIDが、今も多くのシステムで使われています。これは、家の鍵をドアノブにかけっぱなしにしているのと同じくらい無防備な状態です。
災害は、特別な場所からではなく、日常の管理不足という、ごく身近な「穴」からやってくるのです。
今日から始める!わが社の「デジタル防災計画」
難しく考える必要はありません。『デジタル防災』は、4つの基本的な備えから始まります。
1. 避難計画と非常持ち出し袋(バックアップ)
最も重要な対策です。データが暗号化されても、無事なバックアップさえあれば、事業を再開できます。鉄則は「3-2-1ルール」。【3】3つのコピーを取り、【2】2種類以上の異なる媒体(例:社内サーバーとクラウド)に保存し、【1】1つはネットワークから切り離した場所(オフライン)に保管します。これが最強の「非常持ち出し袋」です。
2. 施錠と窓の補強(アクセス管理の強化)
家の鍵を頑丈にしましょう。まず、パスワードを長く、複雑にすること。そして、可能であれば必ず「多要素認証(MFA)」を設定してください。IDとパスワードだけでなく、スマホの認証アプリなどを組み合わせることで、不正ログインを劇的に防げます。特にVPNやクラウドサービスには必須の「補助錠」です。
3. 消火器と警報機(セキュリティソフトと更新)
信頼できるセキュリティソフトを導入し、常に最新の状態に保つことは「火災警報機」の設置と同じです。また、Windowsや使用しているソフトウェアの更新通知が来たら、絶対に後回しにしないこと。これらの更新には、発見された脆弱性を塞ぐための重要な修正が含まれています。これが「初期消火」の役割を果たします。
4. 定期的な防災訓練(従業員教育)
攻撃の多くは、従業員を騙してウイルス付きのメールを開かせる「フィッシング」から始まります。「防災訓練」として、不審なメールの見分け方を全社員で定期的に学び、情報共有する文化を作りましょう。一人の「うっかり」が、全社を危険に晒すからです。
「防災」は経営者の仕事です
中小企業にとって、ランサムウェア対策は、もはや情報システム担当者だけの仕事ではありません。事業継続を左右する、経営の最重要課題です。
何から手をつけて良いか分からなければ、IPAが提供する「サイバーセキュリティお助け隊サービス」のような、中小企業向けの安価な支援サービスもあります。
「うちは大丈夫」という根拠のない安心を捨て、今日から『デジタル防災』の第一歩を踏み出すこと。それこそが、会社と従業員、そして取引先の未来を守る、経営者の最も重要な責務なのです。
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