はま寿司バイトの賃金は1分単位へ！「一分を笑う会社」に立ち向かった学生たちの静かな革命
「タイムカード、打刻はしたけど、給与計算は15分単位だから…」
アルバイト経験のある方なら、一度はこんな経験をしたことがあるかもしれません。わずか数分のことだと諦めてしまいがちな、この「よくある慣行」。しかし、その数分は、本当に「なかったこと」にして良いのでしょうか？
今回、大手回転寿司チェーン「はま寿司」を舞台に、この長年の慣行に「ノー」を突きつけた学生たちがいます。これは、はま寿司のバイトの賃金に革命を起こした、若者たちの物語です。
この物語のテーマは、『一分を笑う会社は、一分に泣く』。軽視された「一分の価値」が、いかにして大きな企業を動かしたのか。その軌跡を追ってみましょう。
岩盤だった慣行：「15分切り捨て」という見えない損失
物語の始まりは、多くのアルバイトが疑問にさえ思わなかったかもしれない、一つのルールからでした。
ユニオンによると、はま寿司ではこれまで、出勤時の賃金計算が15分単位で行われ、端数は切り捨てられていました。例えば、17時50分にタイムカードを打刻しても、給与計算が始まるのは18時から。この「10分間」は、タダ働きになっていたのです。
これは、日本の労働法が定める「賃金全額払いの原則」に抵触する可能性のある、重大な問題です。労働基準法第24条は、労働の対価は、たとえ1分であっても正しく支払われなければならないと定めています。
会社にとっては、効率化や慣行という名の「笑われるほど小さな一分」。しかし、そこで働く人々にとっては、日々積み重なる、決して小さくない損失でした。
一滴の雫：学生たちが結成した「回転寿司ユニオン」
この厚い岩盤に、変化の兆しが訪れます。2025年6月、はま寿司で働く学生アルバイトやパートたちが、労働組合「回転寿司ユニオン」に加入し、「はま寿司本部」を結成したのです。
このユニオンは、もともと2022年に「スシロー」の学生アルバイトたちが中心となって結成されたもの。彼らは同様の問題意識からスシローと粘り強く交渉し、賃金の1分単位化と、過去の未払い分の遡及支払いという大きな成果を勝ち取っていました。
その成功事例は、はま寿司で働く若者たちに勇気を与えました。「自分たちの職場も変えられるかもしれない」。たった一人ではかき消されてしまう声も、組合という形になることで、会社と対等に話せる大きな力に変わったのです。
記者会見に出席した大学1年生の男性は、こう語ります。「団体交渉で自分の意思が通り、会社側も悩みを受け入れてくれた」。彼の言葉は、会社に「一分の価値」を認めさせた、静かな勝利宣言でした。
岩をも穿つ：団交の成果と残された課題
2025年8月27日、記念すべき初の団体交渉が行われました。
その結果、はま寿司側は、2025年度内に出勤時間も1分単位での計算に改めるとの回答を示しました。まさに、粘り強い交渉という「一滴の雫」が、厚い岩盤を穿った瞬間でした。
これは、はま寿司のバイトの賃金体系における、歴史的な一歩です。この変更は、組合員だけでなく、全国のはま寿司で働くすべての従業員に適用される見込みです。
しかし、物語はまだ終わりません。組合が求めている、これまでの「切り捨てられてきた時間」に対する過去分の未払い賃金の精算については、継続協議となっています。次回の団体交渉は本日（9月21日）にも予定されており、彼らの対話は続きます。
私たちへの教訓：「一分の価値」を諦めないために
今回の出来事は、「はま寿司」という一企業だけの話ではありません。これは、日本中のアルバイト、特に声が届きにくいと感じている学生たちへの、力強いメッセージです。
「当たり前」を疑う勇気
給与明細を見て「こんなものか」と諦める前に、自分の働いた時間が正しく評価されているか確認してみましょう。おかしいな？と思ったら、まずは声を上げることが第一歩です。
知ることの重要性
労働基準法など、自分たちの権利を守るための知識は、交渉の場で大きな武器になります。公的な相談窓口や信頼できるウェブサイトで情報を集めることができます。
繋がることの力
一人では難しくても、同じ思いを持つ仲間と繋がることで、大きな変化を生み出せます。労働組合は、そのための強力なツールの一つです。今回のようなユニオンは、学生やパートタイマーでも一人から加入できます。
「一円を笑う者は一円に泣く」ということわざのように、会社が軽視した「一分の価値」。それを大切に思う従業員たちが声を上げたことで、会社は今、その「一分」と真剣に向き合わざるを得なくなりました。
あなたの職場の「一分」は、正しく評価されていますか？この物語は、私たち一人ひとりにそう問いかけているのです。
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